福岡家庭裁判所 昭和44年(少)4264号 決定 1970年1月20日
少年 Z・S (昭三一・二・一四生)
主文
本件を福岡県田川児童相談所長に送致する。
福岡県田川児童相談所長は、この少年に対し、必要に応じその行動の自由を制限し、またはその自由を奪うような強制的措置をとることができる。
但し、その期間はこの決定の日から一年間を超えてはならない。
理由
一 事件送致の事由
少年は、○○中学校に在学しているものであるが、中学校入学の頃よりシンナーの吸引を始め、またその頃より窃盗の非行も始まり、爾来毎日のようにシンナーを吸引し、窃盗の非行回数も激しくなり、遂に昭和四三年一一月○日少年の保護者の要請により○手○立病院(精神病院)に入院させたが、翌四四年九月○日退院後も依然としてシンナーの吸引をやめず、窃盗強制わいせつ等の非行が続き最近では殆んど登校せず、ために同年一一月○○日以来数回に亘り田川児童相談所において少年を一時保護したが、その都度無断退所し非行を繰り返えすので少年を強制的措置のとり得る教護院に入所させる必要があるというのである。
二 当裁判所の調査および審判の結果
少年は、昭和四三年三月福岡県鞍手郡○○町○○○小学校を卒業・同年四月同町○○中学校に進学したものであるが、小学校卒業の頃より友人○山○夫より誘われてシンナーの吸引を覚え保護者の再三に亘る注意にも拘らずこれを止めず、次第に吸引の回数も増え常用癖となり、また中学校入学の頃より怠学外泊が激しくなり、同年七月初頃からは○山○夫とともに窃盗の触法行為も頻発となり、再三警察官より補導されるようになつた。このため両親は少年の処遇に困り同年一一月二日少年を○手○立病院(精神病院)に入院させ治療を受けさせたが、入院中数回に亘り病院を抜け出し、依然としてシンナーの吸引を止めず、盗み、通行中の婦人に抱き付くなどの強制わいせつの触法行為を繰り返えし、治療効果のないまま、二学期より登校させるため翌四四年九月○日同病院を退院させたものの、依然として登校せず、窃盗、婦女に対する強制わいせつの触法行為を反覆し、ために田川児童相談所において少年を一時保護したが無断退所し触法行為を繰り返えすこと五回に及び、やむなく同相談所は少年を同年一二月一九日福岡学園に教護の措置をとつたが、少年は即日同学園を逃走し、施設に定着しない現状にある。
一方少年の家庭は、実父母健在であるが、父は炭抗の抗内夫として各地の炭抗を転々し、昭和三八年頃より現在の貝島炭抗において抗内夫として稼働しているものの、昭和四〇年一〇月頃抗内で稼働中右足首を骨折し、現在は生活保護を受給しているもので、少年に対する指導監督は期待できない。実母は子供の教育には熱心であるが、やや保護過剰の面もあり、現在両親とも少年の処遇に困り適切な施設に少年を収容し、少年を監護教育して貰い度い旨希望している。
また少年の知能は普通域(IQ一〇一)にあり、シンナーの嗜癖を止めれば、義務教育課程の終了もさして困難でないと思われるが、意志薄弱のため容易にシンナーの吸引を止めることができず、また軽度の抑うつ状態が認められる。
三 そこで、少年の年齢および上記行動歴、環境、資質など諸般の事情を総合して、少年に対しては、最早任意に出入りのできる教護院における教護では不十分であり、強制的措置をとり得る教護院に収容し、その行動の自由を制限し、またその自由を奪うのも止むを得ないと考えるので、本件許可の申請を相当と認め少年法二三条一項一八条二項、少年審判規則二三条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 細江秀雄)